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東京高等裁判所 昭和53年(ラ)1110号 決定

抗告人

玉名敏夫

主文

本件競落許可決定を取消す。

本件競落は許さない。

理由

抗告人は、「原決定を取消し、更に相当の裁判を求める。」旨を申立て、その抗告の理由の要旨は、「一 本件公正証書には、債権者渡辺昇が昭和五二年二月一日金三九〇万円を皆川令次に対し貸し渡し、かつ、抗告人が保証した旨記載されているが債権者渡辺が皆川に対して右金員を貸し渡したことはなく、かつ、抗告人がこれを保証したことはない。したがつて、本件公正証書に基づく本件競落許可決定は違法である。二 かりにそうでないとしても、抗告人は、昭和五三年一一月三〇日本件競売申立債権および執行費用合計四八二万二七七〇円を債権者渡辺に対して弁済のため提供したが、不在のためこれを交付することができず、弁済供託をしたから、本件競落許可決定の取消を求める。」というのである。

よつて案ずるに、一件記録によると、本件債権者渡辺昇は、抗告人に対し、本件公正証書に基づく保証債務元金三九〇万五〇〇〇円およびこれに対する昭和五二年二月一日から同五三年一月三一日までの年一割五分の割合による利息金五八万五七五〇円合計金四四九万〇七五〇円の債権を申立債権として本件強制競売の申立をしているところ、抗告人は、本件競落許可決定後の昭和五三年一一月三〇日右渡辺に対し金四八二万二七七〇円(前記四四九万〇七五〇円および執行費用三三万二〇二〇円の合計額)を申立債権の弁済として提供すべく、同人宅に赴いたが、同人が留守不在によりこれを交付することができず、ために右金員を弁済供託し、同年一二月一日当裁判所に対し右供託書(写)を提出していることが認められる。

しかして、右供託書(写)の提出は、民訴法五五〇条四号所定の弁済証書の提出に準ずるものと認めるのが相当である。

このように、競落許可決定に対し即時抗告の申立があり、同法五五〇条四号所定の証書に準ずるものが提出されたときは、競落許可決定を取消し、さらに、競落不許の裁判をすると解するのが相当である。(東京高決昭和四四年一二月一七日・東京高裁判決時報二〇巻一二号二五八頁参照)、(なお、本件強制競売手続を終了させるためには競売申立の取下がなされることを必要とし、さらには、本件債務名義に対する請求異議の訴を提起し、その判決により債務名義の執行力を排除することが必要である)。

以上のとおり、本件抗告はその余の論旨について判断するまでもなく、理由があるというべきである。

よつて、本件競落許可決定を取消して、本件競落を許さないこととし、主文のとおり、決定する。

(森綱郎 新田圭一 奈良次郎)

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